放熱性、静音性、省コスト性に優れたBTX
仕様への準拠を・・・
新しいデスクトップ・インターフェイス仕様の
BTX (Balanced Technology Extended)
は、広く入手可能な標準コンポーネントを使ってデスクトップ・システムを構築するためのスケーラブルかつ柔軟な共通基盤を提供します。BTX
はシステムの電力供給および放熱に関する環境を大幅に改善することを目指して設計されています。
BTX
では、あらゆるサイズやプロファイルのシステムにおいて、サーマル・モジュールの1個のファンによって生成される「インライン空気流」を利用することが推奨されています。少ない回転数でサーマル・モジュールのファンを動作させ、温度の低い冷却風を発熱量の多いシステム・コンポーネント全体に高速に吹き付けるため、冷却コンポーネントの低コスト化と簡略化が図れるほか、システムの騒音レベルも抑えることができます。
BTX フォーム・ファクタ仕様
BTX フォーム・ファクタ仕様では、従来のデスクトップ・フォーム・ファクタとは異なるメカニカル・インターフェイスがいくつか定義されています。BTX フォーム・ファクタ仕様は www.formfactors.org (英語) で公開されており、以下の新しい仕様内容が詳しく規定されています。
- ゾーン
A (およびゾーン F) に2種類の高さを規定:BTX
仕様では、ゾーン A およびゾーン F
に関して高さの異なる2種類のサーマル・モジュール (Type
I と Type II) を利用できます。Type II
のサーマル・モジュールは超薄型のシステム設計用で、小型のファンとヒートシンクを使用します。しかし、シャーシに厚みのあるパフォーマンス・システム構成では、Type
II のサーマル・モジュールよりも高さのある Type I
のサーマル・モジュールの方がコストおよび騒音の面で有利になります。このため、ゾーン
A (マザーボードの上部) とゾーン F (マザーボード前面。詳しくは後述)
に関しては、Type I 用と Type II 用の2種類の高さが規定されています。マザーボードに対するメカニカル・インターフェイス,
(ソケットおよび電圧レギュレータの取り付け範囲など)
は Type I と Type II のサーマル・モジュールで共通です。
- マザーボードのフロント・ゾーン:Type
I および Type II
のサーマル・モジュールは、マザーボード上だけでなくマザーボードの前面でも利用できるように専用のスペースが割り当てられています。マザーボードの前面にサーマル・モジュールのファンを配置することにより、(1)
CPU ヒートシンク、(2) 電圧レギュレータ (CPU
ヒートシンクの底面とマザーボード表面の間のスペース)、(3)
マザーボードの裏側の3つの経路に冷却風を送り込むことができます。これら3つの空気流路はいずれもシステム全体の放熱性能を高める上で重要な役割を果たします。マザーボードのフロント・ゾーンには、SRM
(後述)
をマザーボードのフロント・エッジよりもさらに前方に突出した形で取り付けるためのスペースが確保されているため、機械的な衝撃を受けた際に
CPU
ヒートシンクの慣性負荷をより強力に支えられるようになっています。
- サーマル・モジュール・インターフェイス:BTX
仕様では、シャーシにサーマル・モジュールを取り付けるための標準メカニカル・インターフェイスを備えることが必須となっています。サーマル・モジュールに外気を取り込むためのシャーシ開口部の周囲には、サーマル・モジュールのダクトを嵌合させるための物理的なインターフェイスを備える必要があります。サーマル・モジュール・インターフェイスの開口部には、外気を直接取り込む必要がありますが、これはシャーシ・フロント・パネルのシート・メタルまたは吸気ダクトのいずれかを使用します。ダクトを使用する場合は、ダクトの吸気口はシャーシの上部、底部、側部など、任意のパネル表面に取り付けることができます。なお、サーマル・モジュール・インターフェイスは、Type
I または Type II
のサーマル・モジュールのいずれかに対応させる必要があります。
- SRM
(Support and Retention Module) アタッチメント機能:SRM
は BTX
システムの中心的な構造物となるものです。これは、機械的な衝撃や落下の際に
CPU ヒートシンクの慣性負荷を支える役目を果たします。SRM
はヒートシンクの慣性負荷をシャーシ・プレートの堅牢な部位に伝達することによって、マザーボードが上方に湾曲するのを防ぎ、表面実装コンポーネントの正常な動作を保証します。BTX
ではシステムのサイズにかかわらず1つの SRM
を使用することで、構造上の堅牢性を確保するようにしています。
BTX
がもたらす価値
BTX
は、従来のデスクトップ・フォーム・ファクタに比べ、以下の点で明らかなメリットがあります。
- スケーラビリティ:BTX
では、スモール・フォーム・ファクタのシステム設計においても標準コンポーネントや高性能プロセッサを利用できます。筐体容積の小さいシステムや新しいシステム・プロファイルに関しても低コストの標準コンポーネントや高性能コンポーネントを使ってインテグレーションを行えるようにするため、インテルおよび業界のコンポーネント・サプライヤは多様なサイズの電源やサーマル・モジュールの開発に取り組んでいます。
- マザーボード設計:リア・パネルの開口部の幅を大きくすることで、次世代
I/O やレガシー I/O
にも幅広く対応することができます。チップセット・コントローラから
I/O
およびメモリへの配線についてもパフォーマンスが改善されています。CPU
ソケット周辺に電源プレーン・マネージメントおよび I/O
配線用のスペースが広く確保されているため、現在はもちろん次世代プロセッサにおいても配線の混雑を防ぐことができます。
- 構造上の強度:BTX
では標準の SRM (Support and Retention Module)
コンセプトを採用しており、1個の SRM
であらゆるサイズおよびプロファイルのシステムに十分な強度をもたらすようになっています。マザーボードの湾曲への対策が不十分な場合、機械的な衝撃や振動、あるいは長期にわたる信頼性テストによって障害が発生する可能性がありますが、標準の
SRM はこうした問題を解決します。
- 電力供給と放熱:BTX
の最大の利点は、デスクトップ・システム内に存在する発熱量の多いコンポーネントすべてに対して冷却性能が大幅に強化されている点にあります。BTX
システム内部には明確な気流経路が確保されるため、2つのファンを使用するだけで、電力供給用の素子など発熱量の多いコンポーネント全体に低温度の気流を高速に吹き付けることができます。
- 騒音:BTX
システムではファンを2つしか使用しないため、リア・パネルのシステム・ファンやグラフィックス・カードのヒートシンク・ファンなど、いくつかの騒音源を除去できます。BTX
のサーマル・モジュールでは明確な気流経路に低温の冷却風を流すことができるため、システム・ファンの回転数もきわめて低く抑えられます。この結果、高性能かつ低騒音のシステムが実現します。
- コスト:発熱量の多いすべてのコンポーネントに低温度の気流を高速で吹き付けることによって、従来よりも大幅に安価なヒートシンク・テクノロジ/デザインを使用できるようになります。プロセッサの電圧レギュレータおよびマザーボードの裏側にも気流が確保されるため、電力供給用コンポーネントの数を減らせるほか、ソケットの信頼性も向上します。
BTX
の性能面でのメリット
インテルは、BTX の優れた特性を実証するために2種類のリファレンス・システムを開発しました。1つは筐体容積12.9L
のスリム・タワー・デスクトップで、これはメカニカル、構造、温度、騒音面ですべての条件を満たしていることが検証されています。このリファレンス・デザインは製造前のインテル(R)
チップセットをベースにしたプラットフォームを使用し、発熱量115W
のプロセッサと75W の PCI Express* x16
グラフィックス・カードをサポートし、騒音レベルは3.8BA
未満に抑えています。もう1つは6.9L
の超スリム・タワー・デスクトップで、こちらは2004年4月に検証が行われることになっています。このシステムも製造前のインテル・チップセットをベースにしたプラットフォームを利用しており、115W
のプロセッサをサポートし、騒音レベルは4.0BA
未満となるように設計されています。
以下、ATX
および BTX
のリファレンス・デザイン・システムの開発と検証から得たデータをもとに、それぞれの規格の主な特性を比較してみます。ここでは、115W
のプロセッサ、4つの拡張スロット (高性能グラフィックス・カード用1スロットを含む)、280W
電源に対応していることがインテルの品質・信頼性基準によって検証されたスリム・タワーのシステムを用意し、両方に同じ負荷をかけて比較を行いました。
- 構造環境:SRM
(Support and Retention Module)
およびサーマル・モジュールの構造設計により、CPU
ヒートシンクの最大許容重量は ATX の450g から BTX では900g
に増大しています。
- 騒音:12.9リットルの
BTX リファレンス・デザイン・システムは、ISO 7779
準拠のアイドル動作モードにおいて騒音レベルが3.73 BA
であることが検証されています。
- 温度環境:BTX
および ATX
のシステム設計における典型的なサブシステムおよびコンポーネント部分の気流量と温度を比較したものを以下の表に示します。
BTX
のデザイン・インに関するストラテジ
インテルはサプライヤおよびシステム・インテグレータ数社とのコラボレーションのもと、高性能システムの要件を満たす標準コンポーネントの入手性の向上に努めてきました。ここで重要なのは、12.9L
のシステム向けに設計されたコンポーネントは、その他のさまざまなサイズやプロファイルのシステムにも使用できるという点です。検証済みの
CFX12V 電源および Type I
のサーマル・モジュールはすでに提供が開始されており、これを直接組み込んでシステムを構築することができます。あるいは、リファレンス・デザインをベースに、よりいっそうの高性能化やコスト削減を図ることもできます。サプライヤおよびインテグレータの一覧については、担当のインテル代理店経由でご入手いただけます。
このほか、コンポーネント・サプライヤやシステム・インテグレータ各社において
BTX
コンポーネントやシステムの開発から性能検証までを行えるようにするため、現在インテルでは設計条件の作成を進めています。以下の設計情報については、2004年4月に
www.formfactors.org (英語)
で公開されることになっています。
- システム設計ガイド:あらゆるサイズおよびプロファイルのシステムを対象に、熱、メカニカル、構造、騒音に関する設計情報を提供します。また、主要コンポーネントの相互依存関係や、熱および構造に関する典型的な境界条件についても説明しています。
- リア・パネル
I/O 設計ガイド:デスクトップ・システムのインテグレーション用にマザーボードやシャーシをチャネル経由で供給するサプライヤ向けに、典型的なリア・パネル
I/O の構成を定義したものです。
- 電源設計ガイド:BTX
規格に準拠した電源はすべて BTX
マザーボードに使用できますが、特に小型のシステム設計用に新しい電源規格、
LFX12V と CFX12V
が用意されます。このガイドに記載された電源性能に関する設計上の推奨事項は、インテルの検証基準と併せて使用します。
- サーマル・モジュールに関する要件定義書:放熱、気流、メカニカル、構造に関する推奨事項を記載するとともに、インテルのリファレンス・デザインの
Type I および Type II
のサーマル・モジュールについても説明しています。サードパーティのテスト・ハウスによる検証の手順と基準も含まれる予定で、このテスト結果の情報をもとに、システム・インテグレータは各自のシステム設計に適したサーマル・モジュールを選べるようになります。
- SRM
(Support and Retention Module) に関する要件定義書:メカニカル・インターフェイスおよび構造的な推奨事項をまとめたもので、サードパーティのテスト・ハウスにおける手順および検証基準と併せて使用します。
- サードパーティのテスト・ハウス:インテルでは、各地のサードパーティのテスト・ハウスでサーマル・モジュール、シャーシ、SRM
(Support and Retention Module)
のテストと検証を行えるよう準備を進めています。2004年第3四半期以降、サプライヤはコンポーネントを提出してテストを受けられるようになるほか、システム・インテグレータはそのテスト結果の情報をもとに、特定の性能要件を満たしたコンポーネントを選んでシステムを構築できるようになります。
まとめ
BTX
仕様、リファレンス・デザイン、設計ガイドが出そろうことによって、筐体容積6L
から標準的なデスクトップ・タワー・サイズまで、幅広い種類の斬新なプロファイルのシステムを、各種コンポーネントを用いたビルディング・ブロック・アプローチで構築できるようになります。この新しいフォーム・ファクタの立ち上げに当たっては、多くのコンポーネント・サプライヤやシステム・インテグレータがインテルとの共同作業を進めてきました。今後、設計ガイドとして提供される情報を利用することによって、主にデスクトップの分野で画期的なシステム設計が広く普及することになるでしょう。